今年は梅雨に入っても雨が少なく、ここ紀南地方では梅の収穫の最盛期を迎えようとしていますが、以前として雨が降らないので身太りせずに小粒傾向、さらには春も寒かったために受粉があまりできずに結果も少ないとのこと。
ひと雨ほしいところです。
熊野古道のガイドも6月はほとんど依頼がなく、梅雨時期はひと段落します。
そんな中でも休みがないのが野生動物。
梅雨時期でももちろんおかまいなし。落ちている梅も猿にかなりかじられています。
本宮では、古道沿いで栽培していたシイタケを20匹の猿の集団に壊滅させられたとか。また、シカによる食害も深刻で、古道沿いには皮を剥ぎ取られた杉、食い荒らされたシダなどを見かけることがあります。また、古道はイノシシに破壊され、年々道幅が狭くなってきているところもあります。
和歌山県では野生動物の食害による被害が年間3億円以上。紀勢本線では電車とシカが接触する事故がたびたび起こっています。
年間捕獲目標を増やしても効果はなし、狩猟者も高齢化・減少傾向で、県も頭を抱えています。こうなった最大の原因は生態系の頂点に君臨していたニホンオオカミの絶滅でしょう。
その絶滅は1905年に奈良で発見されたものが最後とされていますが、その後も日本各地で目撃例や啼き声を聞いたという例があるため、それがいつなのかははっきりしません。
原因としては、明治時代の野生動物の乱獲による捕食対象動物の減少、オオカミの駆除政策、生活環境の破壊、狂犬病やジステンパーの蔓延などが挙げられていますが、いまだはっきりとはしていません。
熊野古道には「小広峠」と呼ばれる場所があり、以前は「吼比狼峠」と書いたそうです。昔は「千匹狼」と呼ばれるほどの遠吠えが聞こえたのだとか。
オオカミが吼(ほ)える峠・・・
小広峠は昔、昼なお薄暗い峠で、野獣や魔物が現れるとされる不気味な場所だったそうですが、旅人や村人は道中、オオカミの群れに守られたことからこの名がつけられたとされています。
古来オオカミは、農作物を食い荒らす害獣を駆除する動物として崇められていたり、旅人はオオカミが付いて来ているのを見ると安心したそうです。なぜなら、オオカミが付いている間は、小広峠の話と同様、他の獣が近寄れなかったからです。そして、自分たちのテリトリーから旅人が出ていくと、オオカミは自分たちの縄張りに戻っていったそうです。
これを送り狼といいます。
・・・今は別の意味で使われていますが。
わたしはそんなことしませんよ。今はお客様を安全に目的地までお送りすることを心がけてはいますが。ん?これは送り狼になるのか???
もうひとつ、古道にはオオカミにまつわる話があります。
奥州・藤原秀衡(ふじわらひでひら)が妻(実際には側室)を連れて熊野詣でに来た際、滝尻で妻が産気付き、男児を出産。しかし、彼らはその子をこともあろうか、とある岩陰に残し熊野詣でを続けました。
はたして、彼らが熊野詣でから戻って来たとき、その子ははオオカミに育てられ、その岩から滴る乳(水)を飲んで元気だったという。その物語からその岩は「乳岩」と呼ばれ、以後多くの女性が訪れるようになりました。
なぜ、彼らはわが子を岩屋に残したのか・・・それはまたの機会にお話します。
このように、熊野古道においてもオオカミは人間を守る存在であったことがわかります。オオカミ=害獣という概念が始まったのは明治時代の駆除政策からで、その背景にはおそらく、江戸~明治にかけて狂犬病が蔓延し、ウィルスを持った犬と接触をして感染したオオカミが人を襲うようになったのがひとつの原因だったと考えられます。
しかし、オオカミ=害獣で、駆除しなければならないという考えは非常に浅はかですよね。だったら、今でも狂犬病でない犬が時々人間を噛み殺していますが、「犬はたまに人間を襲うから駆除しなければならない」となりますか?
まったく、明治時代っていうのは日本がおかしくなり始めた時代ですよね。特に熊野では神仏分離令で大打撃を被っています。
先にも述べたように和歌山県は、害獣とされる動物の駆除に手を焼いています。ただ、ひとつ言えることは、いくら捕獲頭数を増やしても、狩猟者を増やしても、「焼け石に水」だということが何で分からないんでしょうかね?
シカやサル、イノシシは人間が踏み込めないような山深いところにも当然住んでいます。それを狩猟者がどうやって駆除するんですか?ただ駆除するだけでは「虫歯ができたからそこを直した」と言っているようなもので、根本である普段の虫歯ケア・ブラッシングがしっかりできていないとまた虫歯になるのと同じことです。
人間の都合で破壊したものは、やはり人間が復帰させなければ、自然の力では到底無理でしょう。そのためには、何が一番の解決策であるかを考え、誤解を解くことから始めないとならないように思います。
P.S.
ツキノワグマが人里に現れてそれを射殺したというニュースを時々耳にしますが、オオカミと同じ運命をたどらないことを願います。