現在、熊野古道だけでもかなりの数の語り部団体があります。
そのほとんどは、世界遺産登録直後だと思います。
「語り部団体」とは言っても、その活動の実態はガイド団体とほぼ変わりはないでしょう。
語り部団体のおそらくほとんどは、熊野古道について知ってもらいたいという純粋な気持ちから結成されたボランティア団体から発展したものだと思います。
そんな中で、当会は最後発の団体として結成しました。
もともとは、語り部団体にいた人物が外国語で案内する団体を立ち上げ、メンバーを集め、その延長線上に当会があります。
一番苦労したのが料金設定です。
他の語り部団体さんがどのような決め方をしているのかは分かりませんが、NPO法人Mi-Kumanoから引き継いだ時の料金計算方法は、まったくありませんでした。
少しでもトリッキーなコースの依頼や問い合わせがあると、計算ができなかったのです。
公式なんてなかったので当たり前です。
では、どんな決め方をしていたのかというと、「あのコースが◯◯円だから、このコースはこれくらいかな?」という感じでした。
そこで、だれが計算しても料金が出せる公式を作ることが急務だと感じました。
現在は改良に改良を重ね、ようやく通訳案内士の現在のレートを考慮した上で、ある程度納得のいく料金設定と計算方法が確立されつつあります。
それでも、新しいケースが出てきたり、システム的に不備があったりするので、まだまだ改良の余地があります。
そこで問題として浮かび上がって来たのが語り部団体の料金設定でした。
端的に言うと、コースにもよりますが、通訳案内士のレートと開きがありすぎたのです。
単純に、きちんと「棲み分け」ができているのであれば何ら問題はなかったかもしれません。
しかし、今新たな問題が頭をもたげてきています。
英語を話せる人が、日本語で案内している語り部団体に所属をし始めたからです。
それだけならまだ問題はありません。
どこに所属しようとそれは自由です。
問題はその次です。
たまに、語り部団体に英語で案内ができないかという依頼が入るようです。
そこで、日本語と同じ料金で案内をすることがあるようです。
現に、三重の語り部団体では、日本語も英語も同じ料金設定です。
これが問題なのです。
もしこのようなことが和歌山で定着していけば、間違いなく市場が荒れます。
私は長年、ガソリンスタンド業界にいましたが、安売り店舗が参入を始めてから一気に燃料価格が下落し、一時はガソリンで80円台にまで落ち込みました。
お客様からは「今までたいがい儲けとったんやなぁ」とか「値段下げることできたんやないか」など心無いことも言われました。
その後、旧白浜町内にあった9軒のガソリンスタンドのうち、3軒が閉店、私がいたスタンドは他の安売り業者に売却されました。
約半数が閉店、または事業譲渡に追い込まれたのです。
現在はもっと少ないです。
同じようなことが今、通訳案内士の業界でも起ころうとしています。
当会は日本語でも案内はします。
しかし、料金設定は「先輩団体」より高めの設定です。
これは、後発が単価を下げて参入すれば市場が荒れるからです。
ガソリンスタンドでいた時の苦い経験があるからです。
単価を下げて客を取るという行為は頭の良くない人がすることです。
だからといって、うちと金額を合わせろとは言いません。
もちろん価格設定も自由です。
しかし、当会が日本語で案内することが最後発であるのと同様、日本語で案内していた団体が英語で案内することは「後発」のはずです。
その配慮はしていただいてもいいのではないでしょうか。
あるいは、そういった意識自体がないのかもしれません。
このままいけば、間違いなく熊野での市場が荒れます。
うちも料金の見直しを余儀なくされ、ガイドが相応のガイド料をもらえないとなると、ガイドの魅力がなくなり、入会する人も間違いなく減ります。
現に、熊野のみならず全国の多くの語り部団体が現在抱えている、後継者不足の問題の一つの原因は、間違いなく安いガイド料だからです。
これは何も、語り部団体に限ったことではありません。
今、農家さんが減っている原因は何だと思いますか?
収入が割に合わないからです。
そうですよね?
「米なんか作るより、買うほうが安い」という言葉を、私は幾度となく米農家さんから聞いてきました。
「わしの代で終わり」という梅農家さんも多くいらっしゃいます。
息子さんが跡継ぎ候補としているにも関わらず、その息子さんは別の「お固い仕事」をしています。
そのほうが収入もよく、将来安定しているからです。
語り部の世界でも同じです。
せっかく素晴らしい知識と経験をお持ちである語り部さんにも関わらず、「安すぎないか?」という質問に対して「僕はみんなに喜んでもらえればそれでいい」とおっしゃっている方を結構見てきました。
それは「今の自分だけ良ければそれでいい」ということであり、そこには、将来語り部を存続させていこうという意図がまったく感じられない無責任な発言です。
自分は定年退職で退職金ももらい、小遣い稼ぎ程度でいいかもしれません。
でも、普通に30代、40代、50代の働いている人から見れば、ガイド料をたくさんもらえるほうがいいに決まっていますよね?
どこの団体に所属するのかはもちろん自由ですが、日本語の語り部団体に所属されている方で、外国語で案内できる方にお願いです。
どうか自分を安く売らないでください。
みなさんのやっていることは、だれでもできる仕事ではないんですよ。
もし、所属されている団体で日本語と同じ料金で行ってくれと言われたなら、はっきりと「これぐらいは欲しい」と訴えてください。
その行動が通訳案内士の市場を守り、将来に渡って後継者問題を回避できることに繋がるからです。
当会は幸い、ガイドの高齢化による後継者問題はまったくありません。
毎年40~50代の人が入会してくれるからです。
他の通訳案内士団体も、新型コロナ問題はさておき、おそらく同じでしょう。
現在語り部団体が抱えているそんな問題に、うちは巻き込まれたくはありません。
そして、当会も決して儲かってはいないということも付け加えておきます。
料金の下落はそのまま、当会の解散にも繋がりかねません。
そうなれば、あたたはどうやってガイドの仕事をもらいますか?
他の外国語のガイド団体に所属しますか?
そこもうちと同じような状況から料金を下げている可能性もありますよ。
与える影響は当会に対してだけではありませんよ。
そのあたりも考慮に入れていただき、市場が決して荒れることのないよう、ご協力よろしくお願いいたします。